病院の手話通訳サークル 命つないで18年 伊丹

2012年1月23日 神戸新聞

兵庫県伊丹市立伊丹病院(同市昆陽池1)の看護部長江木洋子さん(57)らが、聴覚障害がある患者に対して手話通訳を行うため、院内サークル「たんぽぽ」を結成し、間もなく丸18年を迎える。メンバーらによる手話通訳は、当初の年間延べ300回程度から、500~600回と倍増し、命に関わるコミュニケーションを支えている。県内でも珍しい取り組みについて、歩みをたどりながら課題を探った。

 1982(昭和57)年、同病院に、小学生の女児が母と祖母に連れられて来院した。診察中、医師と話すのは祖母だけ。江木さんは、親子に手話で語り掛けた。通訳を頼まれ、医師の話を手話で伝え、親子らの思いを医師に話した。同病院の診察室で初めて行われた手話通訳だった。これを機に、各科から通訳を依頼されるようになり、徐々に聴覚障害がある患者の来院が増えていった。
 江木さんは85年、仲間3人とともに、手話サークルの前身をつくった。伊丹ろうあ協会から指導者の派遣を受け、週1回勉強会を開いた。94年度には会則も作り、正式にサークルが発足。「綿毛のようにたくさんの人に手話が広がるように」との願いを込め、「たんぽぽ」と名付けた。
 勉強会では、日常会話に加え、医療用語の手話も学んでいる。現在、会員は看護師や医師、薬剤師など48人。通訳ができるメンバーは、2008年度から病院に採用された専門手話通訳者2人を含め、6人になった。
 同サークルが働き掛け、院内環境の整備も進んだ。受付に筆談用ボードを置き、診察の順番が来たら振動で伝える機器も導入した。救急外来にはファクスを設置。カルテファイルに手話通訳が必要な患者を示し、その日の通訳担当者が分かる一覧表も配った。
 その結果、手話通訳回数は約18年間で倍増し、昨年11月時点で通算7789回に上った。
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 医療情報を得る機会が少ない聴覚障害者のため、同サークルは99年から、医療講習会も始めた。心臓の病気、更年期、インフルエンザなど、テーマはさまざま。昨年11月には救急蘇生法を取り上げ、聴覚障害者ら15人が集まった。同市広畑の女性(38)は「サッカーをしている息子にもしものことがあったら、と思って参加した。音が聞こえなくても自動体外式除細動器(AED)を操作できると知り、安心した」という。
 今後の課題は通訳担当者を増やすこと。2009年からは、サークル以外の職員対象に手話入門講座を始めた。江木さんは「院内サークルは、県内ではとても珍しい。一般の通訳者より医療の知識に明るい看護師らが手話をすることは大きな意義があると思う」と話している。