手話は「重要言語」 関西で普及取り組み進む

2014年5月15日 大阪日日新聞

 手話を言語として位置付け、普及や理解促進を図る取り組みが、関西で広がっている。関西学院大学兵庫県西宮市)人間福祉学部は言語科目の一つとして「日本手話」を開講し、毎年約200人の学生が向き合う。枚方市は、手話の医療通訳者を養成し、ろう者が適切な医療を受けられる制度づくりを模索する。ろう者のコミュニケーションに欠かせない「手話」。言語としての重要性に、社会があらためて目を向ける必要がある。

第二言語
関学大人間福祉学部は2008年度に「日本手話」を選択必須の言語科目として開講。手話を独語や仏語、中国語などと並ぶ「第2言語」として選択できるようにした。学生は2年間に手話の実技と講義を履修している。
同学部の松岡克尚教授(社会福祉学)は「日本社会でも日本語とは異なる言語(日本手話)があり、決して単一の言語や生活習慣、文化で染まっていないこと、豊かな多様性が認められることを学生に気付いてもらう」と開講の狙いを語る。
 「ろう者」と「聴者」を組み合わせた講師陣によるチーム体制で指導。ろう者の講師が実技を、聴者の講師が「ろう文化概論」「日本手話概論」を担当する。実技は手話だけで講義を進める。

*学生の変化
 「聾学校でさえ手話ができない先生がいた。勉強ではなく、話している内容が分からない。誰のための学校なのか?」
 13日の関学大西宮上ケ原キャンパス。ろう者の前川和美講師(38)は1年生のクラスで「私が受けた“教育”」をテーマに講義。相手の口元を見て内容を読み取る「読話法」や「口話法」を押し付けられた自身の経験を振り返り、日本のろう教育の課題を指摘した。
 前川氏は「ろう者が百パーセント分かる言語は手話。口話や読話は相手の話す内容をつかみ取るだけでエネルギーを費やしてしまう。手話での教育が必要」と語る。
 「日本は遅れている」。1年の小川こはるさん(19)は講義を聴いてこう感じ「手話を身に付けるだけでなく、ろう者に対する社会の意識も変えなければ」と話した。関学大の学生の間には講義を機に手話通訳士を目指す動きもあり、社会福祉施設や行政機関に就職し、ろう者と手話で接している。

*安心し医療を
 枚方市は13年度、外国人や聴覚障害者が安心して医療が受けられるようにと「医療通訳」の養成を始めた。外国語の医療通訳の養成は他自治体でも行あるが、手話を対象にした例は珍しい。
 専門用語が飛び交う医療の現場は、ろう者が症状を伝え、医師の言葉を正確に理解することが難しい。市担当者は「ろう者が健聴者と同じように適切な医療を受けるには手話という言語でコミュニケーションすることが必要」と言い切る。
 13年度の講座は3人の通訳者が受講。14年度内にも手話を含む医療通訳者の派遣制度を設ける予定。市は「言葉の壁を越える医療が必要。万人が隔たりなく先進医療が享受できる社会を実現させたい」と意気込む。