災害時の外国人被災者のための「やさしい日本語」2

1のつづきです。


 このような「やさしい日本語」という視点は、さまざまな利用者を対象にする図書館サービスにも必要なものである。たとえば、図書館員のしいはら あやこ(椎原綾子)は「聴覚障害者に筆談は通じているのか?」という文章で、つぎのように「筆談のポイント」をまとめている。
・一つの文は短く簡潔に書く
・回りくどい表現や比喩的な表現、曖昧な表現は避け、具体的に書く
・二重否定は肯定にする
・ひらがなばかりで書かない
・分かりやすい言葉で書く
・読みやすい字を書く(しいはら2006:64)
 第一言語が日本手話であるろう者にとって、日本語は第二言語である。単純に「ろう者とは筆談すればいい」といえる状況にはない。そこで、たくさんの聴者が日本手話を学習し、「筆談のポイント」を認知する必要がある15。
 みみがきこえないと、漢字の意味はしっていても、よみがわからないことがある。そのため、一般に漢字で表記される表現は、漢字で表記しなければ通じにくい。とはいっても、きこえないひとにとって漢字がいつもわかりやすいというわけではない16。また、災害時の情報提供がラジオなどの音声メディアにかたよらないように、きちんと配慮しなければならない。やまだ はじめ(山田肇)が指摘するとおり、携帯電話のインターネット機能をつかった情報提供が必要である(やまだ2006:38-39)。
 このようにかんがえた場合、重要な点は「だれを対象にするか」によって「やさしい日本語」の内容も変化するということだ。
 識字のユニバーサルデザインという視点からいえば、やさしい日本語は「みんなにとってやさしい」を追求しながらも、こまかい点では選択の自由が保障されるほうが理想的である。そこで、わかちがきをする/しない、ふりがなをつける/つけない、ひらがなになおす/なおさない、漢字の使用率など、利用者が自分で選択できるようにする必要がある。そして、それを可能にするのがマルチメディア・デイジーであり、ウェブ上の文書である。
 現在、「やさしい日本語」や「やさしい にほんご」でウェブを検索すると、自治体が作成したウェブサイト(ホームページ)がいくつも表示される。もちろん、だれでもウェブにアクセスできる状況ではない。だがウェブで公開している情報は、印刷物にして行政の窓口でくばることもできる。できることを、できるところから実践していくことが重要である。
 「やさしい日本語」による情報提供は、災害時や音声だけのとりくみに限定することなく、だれもが利用できるようにする必要がある。そのためにも、すべての自治体にひろげていく必要がある。わかりやすい表現は、すべてのひとに必要なのである。