医療ツーリズムの波に乗って開院したが…

医療観光がメインの記事ではないですが掲載します

2011年12月6日 読売新聞

 京都ベテスダクリニックは、韓国からはもちろん、日本からも歓迎され、順風満帆な船出をした。開院式は2010年5月、京都オークラホテルで華やかに行われ、韓国関係者だけでなく、京都市の副市長らも出席した。

 当時、日本の民主党政権は、しきりと、国を越えて治療や検診などの医療サービスを受ける「メディカルツーリズム(医療観光)」の推進を叫んでいた。外国から日本に患者が来て、治療だけでなく、観光もしてくれたら、様々な産業が潤う。京都ベテスダクリニックの開院は、そんな時流にも乗った。

 副市長の出席理由について京都市の観光担当者は「メディカルツーリズムの観点から(クリニック開院は)良いことだと思い、副市長が出席することになった。死亡者が出たことは知っている。日本の警察が捜査して幹細胞投与と死亡は関係ないとの結論になったそうだ。現在、クリニックが診療を行っていないのは、大震災が原因で韓国人患者が来なくなったからと聞いている。近く、再開するのではないか」と話す。

 開院式を取材した韓国の通信社「聯合ニュース」は、「韓国のバイオ企業、京都に幹細胞治療専門病院開院」との見出しを掲げ、「世界で初めて、成人幹細胞を活用しアトピー、リウマチ、糖尿病やがんの治療を行う」「来年(2011年)1万人、2015年には10万人の患者を誘致する計画だ。これが実現すれば、産業的価値は3兆ウォン(約2379億円、当時)に達すると見込まれる」などと報道した。

 クリニック周辺住民によると、週末になると、大型バスで20~30人くらいの韓国人がやってきた。車いすの人もいたが、多くが元気そうだった。韓国政府のその後の調べで、幹細胞投与を受けたのは、糖尿病などの病気を患う患者だけでなく、若々しい肌になるなどアンチエイジングを目的とした健康人もいたことが分かっている。

 年配の人が多く、身なりはパリッとして、お金持ちそうだった。治療費のほか、飛行機など交通費などを加えると、軽く100万円を超えるのだから、それなりの収入がある人でなければ治療が受けられないだろう。

 幹細胞投与を受ける時は、クリニックに併設する5階建ての居室に泊まっていたらしい。昼・夜の食事の時間になると、皆、バスに乗って出かけ、外食していた。東寺や清水寺などの観光地も巡っていたという。

 多くが1泊2日で帰って行ったようだ。そして、次の週末、別のグループがやってくる、という繰り返しだった。

 しかし、2011年1月くらいから、韓国人の姿が見られなくなったという。死亡事故が明らかになったのが2010年10月なので、それが影響しているのはほぼ間違いない。京都ベテスダクリニックの土地・建物は2011年5月、税金未納のため、京都府によって差し押さえられた。現在は人の出入りがほとんどない。栄枯盛衰のはかなさを感じないわけにはいかない。

 実は、RNLバイオの協力医療機関で死亡者が出たのは、日本だけではなかった。日本で死亡事例が出た約1年前の2009年10月、中国東北部の都市・延吉市でも一人の韓国人が幹細胞投与を受け、その後亡くなっていた。