お年寄りに、手ぶりを加えて話す

2011年11月18日 読売新聞

手話より簡単「シニアサイン」

 耳が聞こえにくくなったお年寄りに用件が伝わらず、戸惑ったことがある人もいるだろう。しかし、相手のお年寄りの困惑はそれ以上かもしれない。お互いの意思疎通を円滑にするため、話し言葉に簡単な手話や手ぶりを加えて表現する「シニアサイン」を活用する動きが広がっている。

 「お風呂に入ったら」「ご飯ができたよ」。名古屋市の主婦(58)は、同居する母親(84)に話しかける際には、いつも意識して大声を出していた。母親の耳が聞こえにくくなったためだ。しかし、大声を出すのは疲れるし、繰り返しても分かってもらえないと、ついイライラしてしまう。

 数年前、知り合いに「シニアサイン」を紹介され、講座で習い始めた。それからは、右手で鍵を回す動作をしながら「鍵をかけてね」と話すなど、手ぶりを添えるように心掛けた。

 すると、母親との会話も円滑になり、イライラすることもなくなったという。主婦は「大声を繰り返すと怒っているような感じになり、母親も嫌な気持ちだったと思う」と話す。

 シニアサインは、愛知県内などで約20年間手話通訳をしてきた近藤禎子
よしこ
さん(67)が5年ほど前に考案した。自分の母親の介護の経験などから、誰でも分かる簡単な手ぶりでコミュニケーションを図る方法を、手話をもとに考え出した。2006年にNPO法人「生活支援サイン」(名古屋市)を設立、各地で講座を開くなどして普及に取り組む。

 近藤さんによると、手話は、話し手と聞き手の双方が使い方を覚える必要がある。しかし、シニアサインは、手話を取り入れながらも、「相手に伝わればいい」というのが基本的な考え方だ。

 例えば、「食べる」のサイン。右手の人さし指と中指を箸に、左手を茶わんに見立てて食べる様子を表してもいいし、両手でおにぎりやパンを持ってかじる様子を表現してもいい。相手に合わせてオリジナルのサインを作ることも有効だという。

 お年寄りからの返答も自由だ。「口頭でも、うなずきでも、お年寄りがやりやすい方法で答えてもらえばいい。形式にこだわらず、お互いの気持ちを伝え合うことが大切」と近藤さん。

 高齢者の問題に詳しい桜美林大学教授の長田久雄さん(老年心理学)によると、耳が聞こえにくくなると、「何度も聞き返すのは悪い」「どうせ聞こえないから」などと人との会話をあきらめ、疎外感を抱くケースも少なくないという。

 「聞こえの問題は、当事者以外には分かりにくく、自覚症状がない場合もある。聞こえていないのかなと思ったら、まずは相手の聞こえ方の状態を医療機関などに確認し、その上で、手ぶりを使ったり、紙に書いたりするなどしながら話しかけてあげてほしい」と長田さんは話している。

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シニアサインでお年寄りと接する際のポイント

▽お年寄りにサインを教えようとするのではなく、言葉と一緒にサインを繰り返して使うことで、自然と覚えてもらうようにする。
▽話す内容のすべてではなく、ポイントになる言葉にだけサインをつけ、その前後は推測してもらう。
▽話しかける前には相手の注意を引き、相手の目を見て笑顔で話しかけ、分かりやすいようにサインを送る。
(近藤さんの話などをもとに作成)

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ベビーサインもありますが、シニアサインは初めて聞いたので掲載してみました。