全国初の手話講座開設 大阪・枚方市が医療通訳養成を充実

2014年3月2日 SankeiBiz

医療者とコミュニケーションを取るのが難しい外国人や聴覚障害者らが安心して適切な医療を受けられるようにと、大阪府枚方市が「医療通訳」の養成に乗り出した。2020年の東京五輪パラリンピックの開催決定を受けて厚生労働省も来年度から医療通訳の育成に取り組むが、枚方市は外国語だけでなく、手話も対象とした全国初の試み。将来的には医療通訳を登録し、市内の医療機関などに派遣する制度の創設を目指す。

 海外勤務経験者も

 枚方市は人口約41万人。市内在住の外国人は約3800人、障害者手帳を持っている聴覚障害者は約1200人で、市は「約5千人が医療者とのコミュニケーションに課題を抱えている」と推計する。

 市に対して最初に医療通訳の必要性を訴えたのは、かつて医師との意思疎通が図れぬまま赤ちゃんを亡くした経験のある聴覚障害者らだった。平成23年に会を立ち上げ、医療通訳普及を目指して活動。医療通訳の重要性は市議会でも取り上げられるようになった。

こうした動きを受け、市は市内にある医療系大学や外国語大学、地域の中核医療機関などと連携し、医療通訳士協議会(事務局・大阪大学)の協力を得て、医療通訳の養成に取り組むことを決定。外国語の医療通訳養成にとどまらず、それまでの経緯から「全国でも例がない」という手話も対象にした。

 養成講座は定員18人。その枠に海外勤務経験者ら108人の応募があり、「医療通訳への関心の高さに驚いた」と担当の市立保健センター主幹、村上朋子さん。講座は先月中旬に始まり、外国語(英語・中国語・スペイン語)や手話を得意とする30~70代の男女計19人が受講している。

 切実な体験から

 「家族が病院に行くときは、学校を休んだり早退したりして通訳代わりに連れて行かれた。医者の言葉がよく分からず、家族に伝え切れなくて不安だった」

 受講者の一人で、12歳のときに一家でペルーから来日した女性(35)=大阪市=は日本語に苦労した当時を振り返る。「風邪程度だったけれど、もし大きな病気にかかっていたら…」。自分のような思いをする人をなくしたい、人の役に立ちたいと、母語スペイン語医療通訳を目指し受講している。

 枚方市の笹山杉子さん(36)は夫が米国人。外国人の知り合いが多く、時折、病院に同行するが、「医療用語は日本語でも難解で、それを英語で説明するのはさらに難しい」。昨秋、友人の手術に付き添った際に一層、医療通訳の重要性を感じたという。

 南米エクアドル在住時に「熱を出した子供を水を張った盥(たらい)に漬けられて驚いた」という女性は「異文化を理解し、医療者と患者の橋渡し役になりたい」と話す。切実な体験が受講のきっかけとなった人が少なくない。

 講座は3月中旬まで全10回40時間。医療や保健衛生の基礎知識、医療通訳に必要な倫理や技術を学ぶほか、診察や窓口対応を想定したロールプレーやテレビ電話を用いた遠隔医療通訳など実践的な演習にも取り組む。講師は医療通訳士協議会のメンバーを中心に、小児科医や産婦人科医、病院職員、保健師らも参加する。

 ■厚労省も育成支援

 医療通訳の重要性が高まる中、厚生労働省は来年度、外国人が安心して医療を受けられる環境整備として、医療通訳の育成支援に取り組む。

 2020年の東京五輪パラリンピック開催までに、英語やポルトガル語、中国語、韓国語などに対応できる拠点病院を全国に約30カ所設ける予定。医療通訳の育成に費用補助などを行い、医療通訳の育成カリキュラムなども作成する。新年度予算案に約1億4000万円を計上している。