患者と「対話」していますか?

2014年4月10日 読売新聞
yomiDr. シカゴ大教授 中村祐輔先生のコラム

 先日、「医師と患者の言葉の壁が医療の質にどう影響するのか」をテーマにした講義が、シカゴ大学でありました。米国には英語を話せない人が2000万人以上いるそうです。シカゴ大学病院もそうですが、大きな病院では英語を話せない患者さんが受診する際には、病院側が通訳を手配します。

 講義では、医療専門用語に通じた通訳とそうでない通訳とでは、医療の質に大きな差が出ることが紹介されました。通訳された文章をチェックすると、約半数の患者さんで、診断に不可欠なキーワードの誤訳や省略、薬の服用法の不正確な説明があったそうです。不正確な伝達の60%が、診断や服用法の間違いにつながっています。

 こうした現象は、多民族国家の米国に特異的なことでしょうか?

 日本でも、非常に難解な医学用語で説明を受けた患者さんが、十分に理解できないケースが少なくないと思います。インフォームドコンセント(説明と同意)の重要性が指摘されていますが、手順書を読むような説明になっていないでしょうか。

 「インフォームすること=単に言葉を発すること」ではありません。相手が理解できて初めて伝えたことになるはずですが、対話というより「通知」「伝達」のようになりつつあります。

 日本には、観光と医療をセットにした「医療ツーリズム」を、経済活性化の一つの柱にする動きがあります。日本人でさえわかりにくい医療用語を外国人に正確に伝えることは容易ではありません。国外から多数の患者を受け入れているタイやシンガポールでは、専門スタッフが通訳しています。

 しかし、海外の患者の受け入れを考える前に、自国の患者に十分対応できる制度を整えるのが優先されるべきではないでしょうか。