毎日社会福祉顕彰:言葉の壁、医療費、不法滞在…在留外国人医療に献身 受賞の明石恒浩院長

2014年09月18日 毎日新聞

◇「患者を差別しない」--明石恒浩院長=横浜市中区

 在留外国人の医療に取り組む診療所「ザ・ブラフ・メディカル&デンタル・クリニック」(横浜市中区)の明石恒浩院長(61)が第44回毎日社会福祉顕彰を受賞した。1987年の着任以来、言葉の壁や経済的な理由で悩む外国人を支援してきた。受賞にも「患者を差別しない、医師として当たり前のことをしただけ」と謙虚な姿勢を崩さない。
 「ハロー」。診療所の電話窓口の第一声は英語で始まる。「最初から『もしもし』だと相談しにくいでしょ」。明石さんの細やかな心遣いはこんなところに表れる。1カ月に診察する延べ700~800人の患者の半分が外国人。スタッフは全員、英語に堪能だ。
 幼い頃から異文化への抵抗は少なかった。横浜のインターナショナルスクールを卒業後、フィリピンの大学へ留学し、医療を学んだ。現地での就職を望んだが、家庭の事情で断念。茅ケ崎市内の病院で内科医として勤務していた時に「ザ・ブラフ・メディカル&デンタル・クリニック」が新しい院長を募集していることを知った。
 診療所の歴史は古く、元は居留地に住む外国人専用の病院だった。「学生時代に抱いた志を実現するならここだ」。職場の後押しもあり、一念発起した。痛感したのは言葉の壁や医療費に悩む在留外国人の多さだった。日本語が話せないために、地域の医療機関に診察してもらえないのが現実だった。
 そうした患者一人一人に、診療時間の制限を設けず相談の時間を確保した。不法滞在の可能性があったり、健康保険に加入しておらず医療費が払えなかったりしても、出来る限り対応した。外部の医療機関が出した診断書も患者の母語に翻訳し、患者が通いやすい環境作りを心掛けた。
 診療所の存在を聞きつけ、県内外から頼ってくる外国人が後を絶たない。「正規の報酬をもらっていたら、もっと大きな診療所になっていたかもしれませんね」と笑うが、在留外国人を取り巻く環境への視線は厳しい。依然として医療通訳は広がらず、医療費の支払い能力がないことを理由に外国人の診療拒否をする病院も少なくないからだ。明石さんは「国際的な信頼を得るためには人道的な医療体制の整備が不可欠。こうした患者の支援の必要性を国は認識してほしい」と訴える。