外国人増加で重要性増す「医療通訳」 求められる“質と量”

2014年11月9日 産経ニュース
 2020年の東京五輪パラリンピック開催を控え、訪日外国人の増加が予想される中、日本語のできない外国人が、医療機関で安心して治療を受けるために不可欠な「医療通訳」の充実を図る動きが進んでいる。9日には国際的な医療通訳者の団体が東京都内でシンポジウムを開き、医療通訳の認定試験制度の創設を発表する予定で、厚生労働省も、医療通訳の拠点病院をはじめとした態勢整備を急いでいる。
 ■需要は増加へ
 東京・新宿の国立国際医療研究センターでは平成5年に「国際」が病院名に入って以降、外国人患者を積極的に受け入れてきた。だが、院内すべての医療従事者が語学に堪能なわけではない。
 「ニーズの多い英語、中国語、韓国語、ポルトガル語スペイン語は、電話通訳で対応できるようにしている」と原徹男副院長(57)。電話通訳できない言語は、世界各国で医療援助などを行う同センター国際医療協力局の専門家に助けを求めることもある。
 原副院長は「今後、東京五輪の開催などに伴い、国内で受診する外国人の患者は増加し、あわせて医療通訳の需要は増加するだろう」と指摘。一方で、間違えれば命に関わる仕事だけに質も求められ、「今後を考えると態勢整備は急務だ」とも話す。
 ■文化橋渡し役
 昨年末の国内の在留外国人は約207万人。昨年の訪日外国人は初めて1000万人を超えた。医療通訳士協議会の会長を務める中村安秀・大阪大大学院教授(62)は「患者も国境を越えてくる今、世界トップレベルの日本の医療を、日本語のできない人々にも安心して受診してもらえるようにすべきだ」として、専門知識を持つ医療通訳者の必要性を強調する。
 特に問題になるのは日本人にも難しい医療用語だ。「優秀な通訳でも、心筋梗塞狭心症の違いが分からず間違えることがある」と中村教授。日本では消化のいい食べ物の代表であるおかゆも、海外ではミルクなどが入って、必ずしも病人食として適さないケースがあるなど、医療文化の違いについての理解も重要になる。中村教授は「何も引かず、何も足さずという通訳ではなく、医療通訳者は医療者と患者の間で文化の橋渡しをする役割も期待されている」という。
 こうした中、国際的な医療通訳者団体「国際医療通訳者協会(IMIA)」は世界各国で実施している医療通訳の資格認定試験制度を日本でも創設し、来年度にも試験を実施することを決めた。9日に東京・府中の東京外語大で開催するシンポジウムで発表する予定で、試験では解剖学や医学用語などの理解力を問うほか、実際の通訳の場面を想定した口頭試験も行う方針だ。IMIA日本支部の竹迫和美代表(59)は、「医療通訳がプロの職業として認知されるようにしていきたい」と意気込む。
 ■国も拠点作り
 国も動き出している。
 厚生労働省は9月から、医療通訳が一定の質とレベルで機能するために必要な研修や指導の基準についてまとめた「医療通訳育成カリキュラム基準」をホームページに掲載。また、医療通訳を重点的に配置する拠点病院の指定を行う方針も示している。
 拠点病院は今年度中に10カ所を指定、東京五輪が開かれる平成32年には30カ所にまで増やす計画だ。厚労省の医療国際展開推進室は「要請があれば、拠点病院から、医療通訳を必要とする周辺の病院に派遣していくことも考えるなど、実際のニーズに即した支援をしていきたい」としている。