医療通訳:質の確保難しく 群馬大でシンポ「支援態勢作りを」 /群馬

2015年11月17日 毎日新聞 地方版

 日本語ができない外国人にとって、最大の不安の一つは、病気やけがの際に適切な治療を受けられるかどうか。「医療通訳」は外国人患者の生命に関与する重要な職責だが、国家資格ではなく、報酬や運用方法に統一的な基準は設けられていない。ボランティアが引き受けるケースも多く、「質の確保が難しい」と指摘する声も上がっている。
 15日に群馬大で開催されたシンポジウム「みんなで考えよう『群馬の医療通訳制度』」には医療関係者や通訳者ら約70人が参加した。医療通訳研究会の村松紀子代表は、通訳者が入院時の保証人として押印を迫られたり、患者と一緒にたんを取ってくるよう求められたりすることがある現状を説明。「通訳者を患者の友達と考えている医療機関も多い」と指摘した。出稼ぎに来ている外国人にとって、医療費と通訳費の負担は重すぎるため、受診の抑制につながりかねない。語学能力が高い通訳者は医療通訳より好待遇の司法通訳や教育通訳を選ぶ傾向があり、優秀な人材の確保が難しいという。
 県は2006年、外国籍の住民が安心して治療を受けられるようにと、ボランティア通訳を養成・派遣する制度を始めた。医療機関が県に通訳派遣を要請し、通訳者に交通費として1回2000円を支払う仕組み。しかし、多くの医療機関は「通訳は患者が連れてくる」というスタンス。約130人がボランティアに登録しているが、稼働率は2割にとどまっている。
 パネルディスカッションでは、医療関係者から「片言の英語でコミュニケーションを取っている」「外国語が堪能な職員に頼っている」「患者に深刻な病状を説明する時に、通訳者にどこまで話していいか悩む」といった声が出た。通訳者らは「よく分かっていないのに患者が医師の説明にうなずいてしまうこともある」「通訳した後、自分の通訳が適切だったかどうか振り返る機会がなく、モチベーションを保ち続けるのが難しい」と訴えた。
 神奈川県大和市の「小林国際クリニック」は通訳スタッフを雇い、英語、ベトナム語、韓国語、スペイン語タイ語タガログ語で受診できるようにしている。小林米幸院長は「外国人も日本人も同じ地域住民として受け入れる医療機関が必要。東京五輪に向け、観光客が増える。支援する仕組み作りを急ぐべきだ」と話す。