進む国際化 認証取得施設、1年で倍増 多言語表示/食材に配慮

毎日新聞 東京朝刊 2016年4月3日

 外国人観光客の増加や2020年東京五輪を見据え、院内の多言語表示や信仰に配慮した病院食の提供などに取り組む医療機関が増えつつある。外国人患者の受け入れ態勢を整えた施設の認証を取得した病院はこの1年で8施設から15施設にほぼ倍増し、国も今年度から取得に向けた財政支援に乗り出す。ただ、認証を受けても医療機関側のメリットは少なく、通訳の配置などきめ細かいサービスも依然として手薄なのが現状だ。

「please confirm whether or not you can eat the following items(以下のものが食べられるか確認してください)」
 昨年9月に「外国人患者受け入れ医療機関」の認証を受けた国立国際医療研究センター(東京都新宿区)では、肉類、魚介類、甘味料など、信仰上の理由などで口にしないものがあるかどうかを○×で記入してもらう英語の質問票を、外国人の入院患者に渡している。配慮が必要と分かった患者には職員が直接聞き取りして別の病院食を用意する。
 希望するイスラム教徒用には、教義で禁じられたアルコールや豚由来の成分が入っていない調味料などを常備。ベジタリアンや生活習慣で特定の食品を食べない人の要望にも応える。洗濯室を改修してお祈りできる礼拝室を整備したり、患者や家族からの「ご意見箱」に英語を併記したりする配慮も加えた。
 全国約1400病院を対象にした厚生労働省研究班の調査によると、12年度に外国人患者が1人でも入院した施設は75%に上る。医療機関の国際化対応は民主党政権が力を入れ、12年7月に日本医療教育財団(千代田区)が運営する認証制度がスタート。政権交代もあり14年までの取得は6施設と低調だったが、15年に5施設、16年は1~3月で4施設が新たに取得した。五輪を控える東京都は19年までに、都が管轄する14医療機関全てで認証を目指す方針だ。

通訳確保など課題


 一方で、認証に必須ではない医療通訳ソーシャルワーカーとの連携は、十分とは言い難い。通訳が24時間対応できる病院は、認証医療機関の中でも札幌東徳洲会病院(札幌市)など一部しかなく、話せる言語も限られる。これとは別に厚労省は14年度から医療通訳や医療コーディネーターの配置費用を補助する事業も始めたが、昨年度の実績は全国19病院にとどまる。
 国内外で外国人医療の支援を20年以上続け、患者や医療機関から年間300件以上の相談を受けているNGO「シェア=国際保健協力市民の会」(台東区)によると、医療機関にかかる外国人の多くは観光客ではなく、日本で暮らす留学生や技能実習生らだという。副代表の沢田貴志医師は「彼らが受診しやすい環境を作ってほしい」と生活面も含めた支援の充実を訴える。
 厚労省は今年度、約3100万円の予算を組み、認証を目指す医療機関が外国語のホームページを作る費用などの一部補助を始める。だが、診療報酬上の優遇措置などは実現が難しく、医療機関側が取得のメリットをどこまで感じられるかが普及の鍵になる。日本医療教育財団は「認証医療機関を増やして周知することで、外国人も安心して受診できる施設だという信頼を高めていきたい」としている。

イスラム教徒向け献立 アルコール、豚肉成分入り調味料不使用

 信仰や習慣に沿った病院食の提供には、さまざまな配慮が必要だ。写真<上>の献立(タラの野菜ソースがけ、サラダ、パン、果物)は一見、豚肉とアルコールを口にしないイスラム教徒も食べられそうだが、ソースには豚肉のエキス、サラダのごまドレッシングにはアルコールが含まれる。
国立国際医療研究センターでは、タラをソースのない米油のソテー、ドレッシングをイスラム教の戒律に基づき作られた「ハラルフード」のマヨネーズに代え、パンもハラルフードに取り換えた献立(写真<下>)を用意。誤って配膳しないようトレーの色も変えている。
 同センター栄養管理室長の河野公子さんは「食事は治療の基本。病院では普段から糖尿病など症状に応じて食事内容を調整しているので、外国人の要望にも可能な限り応えたい」と話す。
 ■ことば

外国人患者受け入れ医療機関認証制度

 医療機関側の申請を受け、日本医療教育財団の第三者委員会が審査する。評価対象は(1)受け入れ対応(2)患者サービス(3)医療提供の運営(4)組織体制と管理(5)改善に向けた取り組み。具体的には▽案内図、同意書、請求書などの外国語表示▽食事の配慮▽通訳の提供▽未収金発生防止対策--などを総合的に判定する。対応言語は2016年度から英語が必須で、それ以外は任意。初回の審査には約65万円の費用がかかる。