外国人も安心 道内病院、通訳や案内看板 設置広がる

2016年7月5日 北海道新聞
 外国人患者に対応するため、道内の病院で専任の通訳を配置したり、複数言語の案内看板を掲げたりする動きが広がっている。ターゲットは、高度な健康診断を組み込む「医療ツーリズム」客にとどまらず、増加を続ける一般の外国人観光客にも拡大。「外国人も安心してかかれる医療機関」としてイメージアップを図り、受診者を大幅に増やした病院もある。一方、言葉や風習が壁となりトラブルも起きている。
 「治療を受ければ、必ず元気になれますよ」
 札幌東徳洲会病院(札幌市東区)の病室で6月下旬、ロシア語通訳の川崎マリアンナさん(45)が語りかけると、ロシア人の女性入院患者は安心した表情を見せた。川崎さんは夫が日本人で2013年に採用された。「医療用語は難しいけど、雑談では励ますように話すことを心掛ける」と語る。
 同病院では、川崎さんのような通訳専任の職員6人を含む11人がロシア語、英語、中国語など7カ国語に対応する。院内の案内看板は3、4カ国語で表記。15年12月には、世界で最も厳しいとされる米国の国際医療施設評価機関「JCI」の認証を、道内で初めて取得した。
 認証された病院の情報は「世界中の旅行者が見る」(同病院)というJCIのホームページに掲載される。口コミ効果もあり、外国人の外来患者は15年度に532人と、13年度の170人の約3倍に増えた。国籍は中国35%、ロシア28%、韓国6%と続く。清水洋三院長は「目指すのは医療ツーリズムではなく、旅行者や在住者向けの医療。検査機器などの大型投資をしておらず、採算は合う」と語る。
 道内を訪れた外国人観光客は14年度に154万人と5年間で2倍となった。これに伴い、けがや病気で受診する外国人も増えている。札幌市消防局によると、15年の外国人の救急搬送は159件で、11年の78件からやはり倍増している。
 多くの外国人がスキーやスノーボードを楽しむニセコ地域に近い倶知安厚生病院(後志管内倶知安町)は、約10年前から5人の英語通訳を採用し、外国人患者に対応している。15年12月~16年3月の外国人の外来患者は1698人。05年12月~06年3月の8倍以上だ。
 北大病院は7月から、台湾の輔仁(フジン)大大学院で医療通訳を学ぶ学生を臨床実習生として受け入れ、中国や台湾の患者対応に当たってもらう。函館新都市病院(函館)は専任のロシア語通訳2人を配置し、健診患者を誘致している。
 外国人の受診を支援する自治体もある。函館市は外国人が受診した病院から要請を受けて通訳を派遣する事業を始め、初年度の15年度は4件の利用があった。釧路市も本年度、業者に委託し、電話で患者と医師の会話を通訳する事業を検討している。
 一方、会計時などのトラブルも起きている。医事紛争が専門の黒木俊郎弁護士(札幌)によると、外国人患者が診察料を支払わずに帰国した、などの医療機関からの相談が、約5年前から年に5件ほど寄せられている。前払い金を支払ってもらうなど対策はあるが、口頭で理解してもらうには、高度な語学力が求められる。
 黒木弁護士は「個々の病院が外国人患者に対応するのは負担が大きい。専門知識を持つ医療通訳は国が政策として養成するべきだ」と語る。