医療通訳「善意頼み」限界  「命預かる仕事、支援を」

2017年9月22日 神戸新聞
利用件数が急増している医療通訳は、日本語能力が十分でない在留外国人にとって、日本で生活する上での社会的なインフラとなっている。患者側のメリットだけでなく、病院側もスムーズに診察を進められるなど利点も多く、専門家は「(NPOなどの)善意にばかり頼るのではなく、行政が制度を整える必要がある」と指摘する。
 今月中旬、ベトナム人のファム・トゥ・タオさん(21)は妊婦健診のため、神戸市長田区の同市立医療センター西市民病院を訪れた。一緒に診察室に入ったのは、医療通訳を務めるベトナム人のグェン・ティ・トゥ・トゥイさん(23)。グェンさんは、14の言語を対象に医療通訳のコーディネート業務を担うNPO「多言語センターFACIL(ファシル)」(同区)から派遣された。
 胎児エコー画像の説明、今後の健診スケジュール…。日本語を少しは理解できるファムさんだが「子どものことなので、分からないことがあると心配。一人で来るより心強い」。グェンさんは通訳の予約が入ると、受診科の専門用語を勉強して準備する。「勉強したことを人のために役立てたい」との思いからだ。
 病院側にも利点が多い。ファムさんを診察した森島秀司医師は「細かいニュアンスまで伝わり助かる」と語る。同病院を運営する地方独立行政法人「神戸市民病院機構」(同市中央区)によると、診察がスムーズになり、ほかの患者の待ち時間が短縮されたという。
 有償ボランティアである通訳者への謝礼5千円のうち、患者が1500円、病院が3500円を負担する。利用が増えるほど、病院側の負担が増加する。対応可能な病院が限られ、同機構経営企画室の六田晋介さんは「今後を考えると、行政からの支援をいただきたいというのが率直なところだ」と明かす。
 今月5日に兵庫県が開いた多文化共生社会についての会議で、ファシルの李裕美さん(37)は井戸敏三知事に「団体自体の存続が危ぶまれる。コーディネーターの人件費の半額だけでも捻出してもらえないか」と訴えた。井戸知事は「検討させてください。どういう(支援の)形があるか考える」と前向きな姿勢を示し、2018年度の当初予算案に盛り込む方針だ。
 医療通訳に詳しい神戸市外国語大の長沼美香子教授(通訳学)は「いつまでもボランティアを基礎にしたままでは無理が生じる。命を預かる仕事として認識してもらう必要がある」と指摘している。