「医療通訳」普及進まず

10月13日 読売新聞

民間団体の育成頼み
 日本語が不自由な外国人が医療機関で受診する際に、医師との意思疎通を助けるのが医療通訳だ。日本で暮らす外国人の増加とともにニーズも高まっているが、なかなか普及が進まない。(飯田祐子、写真も)


ポルトガル語を通訳

医師の説明をポルトガル語に訳し、出産したばかりのブラジル人女性と夫に伝える鈴木さん(左から2番目) 「何か、ほかに気になることはありますか?」。愛知県西尾市の診療所「山田産婦人科」を、子宮がん検診のために訪れたブラジル人女性に、日本人の医師が語りかけた。「いま34歳で、出産経験がありません。来年、出産したいと考えているのですが、何か検査を受けておいた方がいいですか?」という質問に、「今のところは、特に検査などは必要ありませんよ」と答えると、女性はほっとした表情でうなずいた。

 日本語、ポルトガル語の会話を取り持っていたのは、医療通訳の鈴木マーガレッチ若子さん(47)。ブラジル育ちの日系3世で、日本語とポルトガル語スペイン語を使いこなす。

 同市周辺には、日系ブラジル人を中心に、自動車部品などの製造業で働く若い外国人が数多く住んでいる。鈴木さんが同診療所で最初の医療通訳として働き始めた16年前は、外国人の出産は年に数人だった。医療通訳の存在が知られるようになると、他県からも訪れるようになり、昨年は150人ほどの外国人が出産。現在は、4人の医療通訳が、英語、ベトナム語にも対応している。

 先月末、長男を出産したブラジル出身のハラ・セレステ・カオルさん(27)は、「初めての出産で分からないことばかりだったが、鈴木さんが分娩(ぶんべん)にも付き添い、『赤ちゃんの頭が見えてきたから、あと少し』などとポルトガル語で状況を説明してくれたので、パニックに陥らずに済んだ」と話す。

理解と支援が課題

 「言葉の壁」は、誤診や医療事故にもつながりかねず、通訳によって診療がスムーズになれば、医師の負担も軽減される。日本で暮らす外国人は220万人を超え(2008年末現在)、医療通訳の必要性は増す一方だ。

 医療通訳を求める声に応じ、NPO法人「多言語社会リソースかながわ」(横浜市)は、神奈川県などと協力し、10言語の医療通訳医療機関に派遣している。京都市などでも、自治体と民間団体による派遣事業が行われているほか、病院が職員やボランティアとして採用するケースもあるが、まだ少数派だ。

 公的な資格制度はなく、人材育成には、民間団体などが独自に取り組んでいる。鈴木さんは、「専門用語や医療倫理、各国の文化など、幅広い知識が必要だが、研さんは、ほとんど自主努力に任されている。患者から金銭面の相談を受けるなど、対処に困ることが起きても、周囲の理解が乏しく、一人で悩んでしまう人も少なくない」と、支援の必要性を訴える。

 今年2月には、医療関係者や民間団体のメンバーらが、初の全国組織となる「医療通訳士協議会」を設立した。会長の中村安秀・大阪大教授(国際保健学)は、「医療通訳は高い専門性を求められ、人命にかかわる責任を負う。その役割をボランティアのみで担うのは難しい。報酬と身分を保障し、プロフェッショナルを育成する必要がある」と話している。

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なかなか普及が進まないと
医療従事者にも少しずつ広めていきたいところです。