診療 手話もOK

周南市の医院、スタッフ8人もマスター
  周南市大内町の「宮里クリニック」(宮里薫院長)が、聴覚障害のある人の診察に手話を採り入れている。手話しかコミュニケーション手段がない人にとって、医師らの説明を理解するには手話通訳者に頼らざるをえないが、医療者が手話を使えれば急病の時でも通訳を待たずに受診できる。クリニックは「聴覚障害者が自由に思いを伝えたり、聞いたりできる診療に取り組んでいきたい」と話している。
(斎藤靖史)

「ひざが痛みますか?」。クリニックの宮里肇医師(40)が聴覚障害者の患者に、手のひらを上向きにして指を軽く曲げ、左右に小さく震わせた。「痛い」を意味する手話表現だ。ほかにも「血圧が高いですよ」「薬は4週間分出しましょう」など診察内容を手話で次々と伝えていく。

聴覚障害者が医療機関を受診するときは通常、障害者自立支援法のコミュニケーション支援事業に基づいて、手話通訳者や要約筆記者などの派遣を依頼することが多い。

しかし、このクリニックでは、医師のほか看護師や受付事務員など8人の常勤スタッフも手話がある程度でき、患者とのコミュニケーションに努めている。

◆障害者「急病も安心」
  「手話が通じるのがうれしい」。受診した聴覚障害者の菱川洋平さん(65)は、満足そうな笑顔でそう手話で表した。「専門的なことは難しいけど、手話通訳がいない時でも自分1人で受診できる。急に体調が悪くなっても、通訳を待たずに診てもらえるので安心です」

宮里医師は「聴覚障害者の人たちが患者で来られるようになって、スタッフも自然と手話が出来るようになった」と言う。市内の聴覚障害者生活支援センター「こすもすの家」のメンバーを招いてクリニックで手話教室を開くなど、勉強も重ねている。

宮里医師は内科とリウマチ科が専門。周南市出身で大阪の大学病院で働いていたが、5年前に帰郷し、市内の病院で働き始めた。手話を覚え始めたきっかけは、その病院に筆談が難しい聴覚障害者が入院したことだった。

幼児期より前に聴覚を失った人は音と文字とが結びつかず、健聴者と同じように読み書きすることができない人も多い。しかし入院すると、通訳がいない時でも診察や日々の体調確認など日常的に会話が必要になる。意思疎通を図ろうと身ぶり手ぶりでコミュニケーションをとるうち、少しずつ手話を覚えていったという。

「手話で受診できる」という評判が広がり、今では多くの聴覚障害者が受診に訪れるようになった。

聴覚障害者の中には(説明の意味が)理解できなかったことを医師に伝えられず、分かってもらえないから聞かなくなるという悪循環がある」と宮里医師。「手話だと相手の伝えたいことを引き出しやすい。耳が不自由なことで遮断される情報の壁をとりはらいたい」と話している。

2009年10月01日 朝日新聞

こういったクリニックが少しずつ増えることを願います。