善意頼みの在住外国人診療1

毎日新聞 2010年10月13日

医療通訳の整備急務
 外国人の患者にとり、医師や看護師とのコミュニケーションを橋渡しする「医療通訳」は、安心して診療を受ける頼みの綱といえるだろう。しかし配置病院は少なく、困り果てた患者が家族や知人に頼り、誤訳のトラブルが起きている。優れた通訳でもほぼボランティアで、善意の限界も指摘される。外国人診療の現場で課題を考えた。

■説明分かり安心
 9月末、大阪府りんくう総合医療センター市立泉佐野病院に、コロンビア出身のシンディ・マシエル・エムラさん(24)=大阪府=が検査のため来院した。来日9年だが込み入った会話はできず、事前にスペイン語通訳を望んだ。この日は病院の医療通訳が2人付き、検査室から最後の会計まで手分けして手伝った。シンディさんの横や医師との間が定位置で、複雑な専門用語ではいったん会話を遮り、手にした電子辞書で確認してからかみ砕いて伝えた。

 「以前は胸の痛みで薬をもらっても何の治療か分からず、精密検査を受けに帰国したことがあります。今日は医師の説明も分かり安心できた。どこの病院でもこうして訳してもらえたらいいのに」とシンディさん。通訳は診察内容などを書いた報告書を作る。次の来院で付く通訳は、事前に報告書を読み注意事項を確認する。

 ■子どもの心に傷
 「急病の少女が来院したが、幼い兄しか日本語を話せず、不必要な手術まで行われてしまった」「子どものころに親を亡くし、私が家族に医師の言葉を伝えねばならなかった。同じ境遇の子に会うと今もつらい」

 そうした声が後を絶たない。子どもが家族の診察を通訳して受けた心の傷や、医療過誤につながってしまった事例だ。外国人家庭では、子どもが先に言葉を覚え、日本語を話せない親の通院に付きそうことがよくある。

 日系4世の普久原(ふくはら)マリさん(31)=兵庫県=は20年前、一家4人でペルーから渡日した。両親とも日本語が話せず、1年で覚えたマリさんが家族の頼りだった。

 とはいえ漢字や病気にまつわる言葉は難しい。15歳年下の弟が生まれる前、母が妊娠中毒症だと医師に告げられても、「妊娠」と「中毒」がどう関係するか分からず、注意事項のみ伝えた。1日4錠服用する薬を「1回4錠飲む」と訳して母が不調になった。「病院や薬局では知らないことばかり。子どもではもっと分からない」と実感している。

 病院関係者の間でも理解が限られているため、医療通訳は一人で問題を抱え、精神的疲労をためやすい。

 医療通訳研究会(MEDINT)=神戸市=の村松紀子代表(47)は指摘する。「専門職として認知されていないため、負担も軽視されがち。疲弊して燃え尽きてしまう人も見た。患者が母国語で受診する環境を守るには、医療通訳への理解や支援も要る」