外国人と共に(下)日系人 お年寄りのそばに

2012年3月13日 読売新聞

経済危機後、工場勤務から転身

 多くの日系定住外国人が暮らす地域で、外国人を積極的に介護の担い手に育てようという施設や団体が現れた。製造工場の仕事を失った人が多く、日本語習得や離職防止が課題になっている。(野口博文、写真も)

人手不足救う

入居者に「寒くないですか」と、優しく語りかける介護職員のバセット・アリス・テルコさん(左)(三重県四日市市の「第二小山田特別養護老人ホーム」で)
 「人手不足だった法人を救ってくれたのは、地域の外国人の方々です」。三重県四日市市社会福祉法人「青山里会」の三瀬正幸・人事室長は、感慨深げに語る。介護施設などを県内7か所で運営する同法人で働く介護職員は計約500人。うち50人以上が外国人で、実に10人に1人を占める。

 介護職員のバセット・アリス・テルコさん(55)もその一人。1996年にブラジルから来日し、これまで車の部品や食品の製造工場で働いてきた。「毎日、同じ作業の繰り返しで、自分はロボットみたいだった」。2008年12月に同法人に就職し、日本語も本格的に覚え始めた。「お年寄りは一人ひとり違う。お風呂で気持ちよさそうにしていると、うれしい」と、ほほ笑む。

 人口約31万人の同市には、ブラジル人を中心に約8300人の外国人が暮らす。同市や周辺には自動車や家電の製造工場が集まっており、そこで働く人が多い。しかし、08年秋のリーマンショック以降、多数の外国人が失職。同法人では、08年10月に初めて外国人を採用したところ、工場勤務者を中心に応募が増え、多い月には15人を雇用した。

 工場では、同僚が外国人ばかりで、日本語をほとんど使わなくても済むため、日本語能力が乏しい人が多い。このため、同法人は、就業時間内に日本語を学べる時間を用意し、ひらがなから指導。日本人職員との親睦会や旅行などの機会を設け、定着を図っている。

日本語教室も

日本語教室で、介護現場で使われる言葉を勉強する外国人介護職員たち(浜松市中区の「グローバル人財サポート浜松」で)
 ただ、こうした取り組みを行う施設は珍しい。国も、日本語が不十分で再就職が難しい外国人の支援に乗り出している。その一つが、文化庁が主催団体を募集し、費用を補助して開かれる日本語教室だ。

 製造現場の仕事を失う外国人が相次いだ浜松市では、浜松国際交流協会が09年、文化庁の支援を受け、介護業界への就職を目指す外国人を対象とした日本語教室を開いた。30人が受講し、13人が就職した。企画した同協会の堀永乃
ひさの
さん(36)は「外国人に介護職員の道を開くことは、外国人の社会的自立と介護人材の確保という、地域の課題を解決する糸口になる」と語る。

 ただし、職場になじめない人も少なくない。同市内では、昨年11月に一般社団法人「グローバル人財サポート浜松」も設立された。日系ブラジル人の中島イルマさん(41)が代表となり、やはり文化庁の補助を受けて、介護現場で働く外国人を対象にした日本語教室を開いている。

 15人が登録する教室では、日本語教師のアドバイスを受け、体調の悪い高齢者の様子を看護師に報告する模擬練習を行った。童謡「ふるさと」の歌や、肉じゃがの作り方も学んだ。

 京都大の安里和晃(あさとわこう)准教授(経済学)は「経済連携協定(EPA)に基づき来日した外国人への研修は整ってきたが、定住外国人が介護現場で働くための語学や資格習得の機会は限られている。高齢社会の支え手確保のため、EPAで培ったノウハウを生かすべきだ」と話している。