外国人と共に(上)介護士候補、職員に刺激

2012年3月6日 読売新聞

医療分野の技術、知識備える

 介護人材不足に備えて外国人雇用のノウハウを獲得しようと、インドネシアとフィリピンから来日した介護福祉士候補者を積極的に受け入れる介護施設がある。候補者の熱心な働きぶりが評価されているが、学習支援の試行錯誤が続く。(野口博文、写真も)

「非常に優秀」

入居者の食事を介助するインドラヤンティさん。「どうぞ」と、笑顔で語りかける(横浜市の特養「新横浜パークサイドホーム」で)
 「もう少し温かいお茶を入れてきますね」。横浜市港北区にある特別養護老人ホーム「新横浜パークサイドホーム」。コップが冷たくなっているのに気づいたインドラヤンティさん(25)が、入居者に声をかけた。

 インドラヤンティさんは、インドネシアで大学を卒業し、看護師の資格を取得。「好きな日本で働きたい」と、日本語の学習を始め、2009年11月に来日した。10年1月から同ホームで働き始め、来年、初めて国家試験に挑む。同僚の上夏井
かみなつい
泰成さん(21)は「明るく、積極的。利用者とコミュニケーションもとれている」と話す。

 同ホームで働く候補者は18人。全国253の受け入れ施設中、最多だ。牧野裕子施設長は「みんなまじめで謙虚。非常に優秀なので採用を増やした。地域でよい人材を確保するのは難しい。介護の質の向上のため、何としても合格して働き続けてほしい」と力を込める。

 候補者に期待を寄せる理由の一つは、「母国の看護師資格を持つ候補者は、医療分野の技術や知識を備えている」(牧野施設長)からだ。フィリピンから来たダ・ホセ・セルン・キアトさん(35)は、病院で10年間看護師として働き、救急搬送にも携わった。合格後、たんの吸引などの医療行為を担える人材に育成したいという。

 候補者が働くことでサービスの質は変化したのか。受け入れを仲介する国際厚生事業団が10年度に、202施設を調査したところ、66%は「特に変わらない」と回答したが、32%は「どちらかというと質が向上した」と答えた。日本人職員への影響も、75%が「勉強になる」、43%が「大きな刺激になる」と受け止めていた。

日本人と同賃金

 ただ、施設側の負担は大きい。日本人と同額か、それ以上の賃金を候補者に支払わなければならないほか、合格に向けた学習支援は施設の責任だからだ。このため、雇用を希望する施設と求人は減少傾向にある。

 同ホームでは、候補者18人を3班に分け、指導役の担当職員を1人ずつ配置。1か月に3日、各6時間の勉強会を開く。来年に受験を控えるグループは1か月に2回、専門学校にも通う。

 指導役の介護職員、矢沢裕子さん(42)は「介護保険制度などの説明のため、私も予習が必要」と言う。勉強会で使う問題文のプリントは、職員による手作りだ。

 国は学習経費を補助するが、施設の負担軽減に乗り出す自治体もある。横浜市は独自に、施設が候補者に支払う賃金の一部を助成。静岡県は「受け入れマニュアル」を策定した。「フィリピン人は一般的にとても面目を重んじる」とし、「人前で注意されると、『恥をかかされた』と感じる」など、一緒に働く際に役立つアドバイスが並ぶ。

「有効な人材確保策」

 介護職員は25年には現在よりも90万人以上多く必要と見込まれる一方、労働力人口は減少する。受け入れ施設57か所を訪問調査した日大の塚田典子教授(少子高齢社会論)は「国は労働力不足への対応が制度の目的ではないと説明するが、多くの施設は、将来の有効な人材確保策の一つと位置づけている。受け入れ施設の取り組みは、日本社会全体のための先行投資とも言える」と評価している。