7月から新在留管理制度 難民認定申請中の外国人に不安広がる

2012年3月27日 神奈川新聞

在日外国人の新たな在留管理制度が7月から始まるのを前に、難民認定申請中の外国人に不安が広がっている。新制度では自治体交付の外国人登録証明書外登証)を廃止。多くの申請者が身分証を事実上失い、日本社会で“見えない存在”となる。国内外から「難民鎖国」ともいわれる厳しい環境に身を置く中、「さらに不安定な境遇に追い込まれ、保健医療や教育からこぼれ落ちる」と懸念されている。

 2月、都内で開かれた在日ミャンマービルマ)人による新在留管理制度の学習会。「自分たちはどうなるのか」。参加者は100人を超え、難民申請者からは不安の声が相次いだ。

 全ての難民申請者のうち、在留資格がなく仮滞在許可もない人は、2009年から11年にかけておよそ4割。新制度の下では、超過滞在など他の非正規滞在者と同じような状況になる。

 在留資格の有無を問わず自治体が交付している外登証が廃止される中、国が新たに交付する在留カードの対象外。自治体で住民票が作成されることもない。多くが、日本で広く利用できる公的な身分証を失い、アパート契約や口座開設など日常生活にも支障が生じるのではと指摘されている。

 難民申請中の男性は「母国でも日本でも自分の存在が認められない」と訴える。現在は就労が認められず食費にも事欠き、国民健康保険にも加入できず無保険の状態。新制度導入で、さらに不安定な状況に陥るだけに「保護を求めて日本に来たのに、どうやって生きていけばいいのか」と不安を募らせる。

 また、引き続き保障される権利も「絵に描いた餅」になりかねない。

 現行制度では、自治体に外国人登録をすれば、在留資格がなくても乳幼児健診や就学の案内などが送られる。新制度でも「現在と同じ権利が保障される」というのが政府の立場だ。

 だが、外国人登録制度が廃止されるため、在留資格のない外国人の存在を自治体が新たに把握することは原則不可能に。法務省入国管理局(入管)への通報を恐れたり、権利があることを知らなかったりして「自治体に自ら申告しなければ、現在と同じ行政サービスは受けられなくなる」(横浜市)という。

 全国難弁護団連絡会議代表の渡辺彰悟弁護士は「難民申請者は生活が成り立たず、危険を覚悟の上で帰国を考えざるを得ない状況に追い込まれる。兵糧攻めのようで生活権が侵される」と指摘。「新制度の見直しとともに、日本に長期滞在し不安定な地位にある外国人に在留を認めることを今こそ考えるべき」とする。

 2月には入管、難民を支援するNPO法人なんみんフォーラム、日本弁護士連合会の3者が覚書を締結。具体的な取り組みとして、難民行政全般に関する改善点を探る協議を掲げる。新制度について入管は「周知に努める」とし、「要望があれば覚書に基づき協議もあり得る」としている。

 ◆新在留管理制度 入管難民法の改定などに伴い、在日外国人の情報を国が継続的に一元管理する。自治体による外国人登録制度を廃止する一方、3カ月超の在留資格を持つ中長期在留者に在留カードを国が交付。新たに特別永住者証明書が交付される在日コリアンなどの特別永住者などとともに、自治体で住民票が作成される。適法に在留する外国人の利便性の向上を図る一方、在留資格のない非正規滞在者を原則除外し、対処を厳格にする。