手話や外国語 医療通訳の普及を

2012年6月16日 読売新聞

聴覚障害者らを支援する元枚方市職員

 聴覚障害を持つ大阪府枚方市の島田二郎さん(68)が、耳が聞こえない患者と医師との会話を手話で取り持つ医療通訳支援の必要性を訴える活動を続けている。

 40年前、1歳だった長女を亡くし、「苦しみに気づけず、手遅れになった」と後悔したことがきっかけだった。17日には、同市で手話に加えて外国語の医療通訳の普及を求めるフォーラムを開催する。

 島田さんは8歳の時、学校で腸チフスの予防接種を受けた後、両耳が痛くなり、突然、聴力を失った。医師から「ワクチンが合わなかった」とだけ説明された。授業にも遊びにもついて行けず、疎外感に襲われた。

 中学校は大阪市生野区の府立生野ろう学校(現・府立生野聴覚支援学校)に進学。「聞こえないのは自分だけじゃないと知り、少し救われた」。高校で歯科技工士の資格を取得。同じ聴覚障害者の妻と結婚し、枚方市に住み始めた27歳の時に長女を授かった。

 長女は1歳7か月の時、天然痘の予防接種を受け、腕が腫れ上がった。受診した病院では採血しただけで帰されたため、大したことはないと軽く考えていたが、その日の深夜になって、容体が悪化。慌てて別の病院に行くと、医師から「なぜ、こんな状態になるまで放っておいたんや」と責められた。長女は脳炎で間もなく亡くなった。

 島田さんは「医師ときちんとコミュニケーションできず、苦しみに気付いてやれなかった」と悔やんだ。そして、「病院に常勤の手話通訳がいたら、娘は死なずに済んだのでは。同じようなことを繰り返してはいけない」と思いを募らせた。

 手話通訳への理解を求めようと、40歳で障害者採用試験を受けて市職員となり、ろう者の生活支援や手話講習の実施などに取り組んだ。

 60歳で退職し、昨年1月、聴覚障害者と、同様に医療通訳が必要な外国人への支援を呼び掛ける市民団体「枚方市医療通訳を実現させる会」を設立した。

 同市では、事前に予約すれば通訳を派遣してもらえるが、夜間の急病など、緊急時には十分な支援を受けられない可能性があるという。市民病院の建て替えが進んでいることから、会では「新病院には、医療通訳を常勤させて」と求めている。

 島田さんは「耳が聞こえなくても、日本語が話せなくても、安心して医療を受けられる環境を作りたい」と話す。

 フォーラムは同会主催。17日午後1時から、枚方市桜丘の東海大付属仰星高メディアセンターで。群馬大医学部付属病院研究員の滝沢清美さんが、通訳と患者、医師が離れた場所でやり取りする遠隔通訳システムの実用性について講演する。参加無料。問い合わせは島田さん方へファクス(072・833・4885)で。