外国人患者の受け入れ強化 厚労省、全国30病院で多言語対応

2014年6月18日 日本経済新聞 電子版

 言葉の面での不安から日本国内の医療機関で治療を受けることをためらう外国人が後を絶たないとして、厚生労働省は外国人患者の受け入れ態勢を強化する。多数の外国人の来日が見込まれる2020年の東京五輪開催までに、複数の言語に対応できる拠点病院を全国に約30カ所設置。医療通訳の育成も後押しし、外国人が安心して治療を受けられる環境を整える。
 日本を訪れる外国人は年々増加。政府観光局などによると訪日外国人は昨年初めて年間1千万人を超え、10年前から倍増した。12年末の在留外国人は約200万人に上り、日本に定住する人も多くなっている。
 しかし、厚労省によると、体調を崩した際に症状を正確に伝えられるかや、医師や看護師の説明内容が理解できるかを不安に思い、シンガポールなど近隣国に移動し、通訳体制の整った病院で治療を受ける外国人が少なくないという。また病院側からも「患者と言葉が通じずに入院の説明ができない」などといった声が寄せられていた。
 こうした状況を打開しようと、厚労省は今年度から外国人患者に対応できる人材をそろえた「拠点病院」の整備に乗り出す。政令指定都市などを中心に東京五輪が開催される20年までに全国30カ所をめどに指定。同省のホームページなどで知らせる予定だ。
 拠点病院は、外国人患者が医師らと円滑にコミュニケーションが取れるように、英語や中国語、スペイン語などの言語に堪能な医療通訳者が多数いる医療機関を想定。受診や支払いの時に必要な書類の作成などをサポートする「コーディネーター」も配置する。
 コーディネーターは他の医療機関から通訳の派遣要請を受けた場合、言語の種類などの要望に合わせて通訳を派遣する役割も担う。
 厚労省は今後、拠点病院を目指す医療機関を公募する。指定された医療機関には、通訳者やコーディネーターの人件費の一部を補助する。
 医療通訳は公的な資格がなく、現状では民間団体や医療機関などがそれぞれ独自に育成している。しかし、地域や医療機関によって通訳の質にばらつきがあるため、同省は目安となる育成カリキュラムを今年度中に作成。通訳の養成に役立ててもらうことで、技量や質のばらつきを改善することも目指す。
 厚労省は一連の取り組みを後押しするため、今年度予算などに約2億円を計上。「東京五輪を控えて国内での外国人患者の増加が見込まれるため、安心して受診できる医療体制を早期に全国に広げていきたい」としている。