外国人患者 初の実態調査 厚労省、通訳など五輪へ体制整備

2016年10月25日 日本経済新聞

 厚生労働省が全国の医療機関自治体を対象に、外国人患者の受け入れ実態に関する初の大規模調査に乗り出すことが分かった。政府は東京五輪パラリンピックが開かれる2020年に向け、外国人患者に的確に対応できる医療機関を大幅に増やす方針。治療実績や通訳などの支援体制を確認、外国人が安心して医療を受けられる環境整備を図る。
 日本を訪れる外国人は15年に過去最多の約1974万人に達し、外国人患者の医療ニーズは増えている。厚労省は調査結果を旅行者や定住者への対応だけでなく、診療や検査を目的として訪日する外国人への質の高い医療サービス提供にもつなげたい意向だ。
 厚労省によると、調査対象は救急患者を受け付けている病院など国内約4千の医療機関。今後調査依頼を出し年内に結果をまとめる予定という。
 調査では各地の医療機関に外国人がどの程度訪れているのか正確に把握できていない現状を踏まえ、各施設の外国人患者の受け入れ実績を確認。旅行者と国内定住者の内訳や日本語を話せる患者の割合も聞き、(1)外国人の診療をサポートする医療通訳(2)来院した外国人の案内役となる医療コーディネーター――の配置状況も調べる。医療費未収など現場が抱える課題の把握にも努めるという。
 一方、都道府県や政令市、中核市など約300自治体へのアンケートも実施。外国人患者の受け入れ促進のために取り組んでいる施策や課題を聞き、医療機関への効果的な支援策の参考にする。
 厚労省によると、訪日する外国人からは「言葉が通じる病院が少ない」などの声がある。医療機関からも「言葉が通じないと問診の正確性に影響し、的確な診断、治療ができない」との懸念が出ているという。
 ただ医療通訳などの配置は予算や人材の確保が課題になる。厚労省は14年度以降、通訳配置の人件費のほか、診療に関する説明書類や同意書といった資料を多言語化するための経費補助事業を実施。各自治体も通訳の養成などを進めつつあるという。
 特定非営利活動法人「シェア=国際保健協力市民の会」副代表で医師の沢田貴志氏は「外国人患者と意思疎通を図るための医療通訳の拡充は不可欠」と指摘。「病院側の直接雇用となると費用面の負担が大きい。自治体が養成し、必要に応じ医療機関に派遣するシステムを検討すべきだ」と話す。