医療通訳 善意頼み限界 宗教の違い苦慮 突発対応できず [福岡県]

2017年02月05日 西日本新聞

 善意頼みに限界-。外国人患者の対応に病院側が苦慮している。医療の通訳は高い語学力が求められ「責任」も重いため、ボランティア経験者でも二の足を踏みがちだ。福岡県などによる通訳派遣も24時間対応ではなく、課題は多い。
 「心を砕くのは、患者や家族を傷つけないような言い回し」。4年余り医療通訳ボランティアを続ける福岡市早良区の英語講師、加藤明子さん(45)は言う。
 呼吸が止まったパキスタン人の新生児の緊急手術に駆けつけた時のこと。いつもは事前にその病気や治療法を調べるが、急で準備ができなかった。モニターの脳の画像を指して後遺症の可能性やリスクを説明する医師の言葉を訳す傍らで、母親が泣きだした。一字一句「100パーセント正確に」と心掛けて訳しつつ、冒頭に「残念ですが」と付け加えることを忘れなかった。
 検査の立ち会いなどの場合、通訳は数時間から半日に及ぶ。命に関わることははっきり「死ぬこともある」と伝えなければいけない。イスラム教徒の女性が男性医師の診察を拒むなど、文化や宗教の違いで治療方針が折り合わないケースも。「医師が感情的になって『わがままを言うなら来なくて結構』と患者に言い、どう訳すか困った」
 福岡県、福岡市が通訳ボランティアを派遣している「福岡アジア医療サポートセンター」には加藤さんら約70人が登録。ただ常駐しているわけではなく、事前予約制で利用は平日昼間のみ。対応言語も英中韓の3カ国語に限られ、病院側は緊急時には民間の通訳を探すこともあるという。
 同センターのボランティアが受け取るのは交通費と謝礼3千円で、病院や患者の負担はない。観光やイベントの通訳はしても「医療通訳は荷が重い」と敬遠する人も少なくない。加藤さんは「病院側もある程度、外国人を受け入れるための人材や仕組みづくりが必要では」と考えている。
 福岡市立こども病院は昨年4月、院内に「国際医療支援センター」を設立した。外国語対応が必要な患者の対応の手順を整理し、医師やスタッフらで共有するためだ。手術の同意書を英文化し、タブレット端末を利用したテレビ電話通訳も民間と契約。今は24時間外国語対応が可能という。こうした患者は昨年4~12月で29人。同院の担当者は「他院では治療できない子どもたちが多い。人材育成だけでなく異文化への理解を深める研修も進めたい」と話す。一方で「外部に少数言語を通訳できる人の連絡網があれば助かる」と指摘した。